2026年の初詣。キンと冷えた空気の中、参道を歩いていると、ふわりと甘い麹(こうじ)の香りが漂ってくることはありませんか?
神社の境内で振る舞われたり、屋台で売られたりしている「温かい甘酒」。冷え切った体には本当にありがたい存在ですが、ここでふと疑問に思ったことはないでしょうか。
「体を温めるだけなら、お茶やコーヒー、あるいはコーンスープでもいいはず。なぜ、初詣の定番は『甘酒』なんだろう?」
実は、初詣で甘酒を飲むことには、単なる「寒さ対策」以上の、日本人と神様の深い関わりを示す重要な意味が隠されています。
この記事では、甘酒が神社の定番になった意外な歴史と、知って飲むだけでご利益がアップする「神道の考え方」について解説します。
さらに、車で参拝する方が一番気になる「運転前に飲んでも大丈夫なのか?」という疑問についても、見分け方をしっかりお伝えしますので、ぜひ最後までチェックしてみてください。
結論:初詣の甘酒は神様への「お供え(お神酒)」のお下がり

初詣の参道で、温かい甘酒が配られているのを見ると「お正月だなあ」と感じますよね。実は、あれは単に「寒いから温まってください」というサービス精神だけで行われているのではありません。
最大の理由は、甘酒が神様にお供えした「お神酒(おみき)」のお下がりだからです。
神社とお酒には、切っても切れない深い関係があります。
お米の収穫を感謝し、来年の豊作を祈る儀式
日本人の主食である「お米」は、古来より神様からの授かりものとして特別視されてきました。
秋に収穫されたばかりの新米を神様に捧げ、無事に収穫できたことを感謝する。そして、その大切なお米と清らかな水で作った「甘酒(または日本酒)」を奉納することで、「来年もまた豊作になりますように」と五穀豊穣を祈願するのです。
つまり、お正月に甘酒が登場するのは、前年の収穫への感謝と、新しい一年の豊かさを願う、農耕民族である日本人ならではの儀式の一環と言えます。
神様と同じものを口にする「直会(なおらい)」の思想
神道には、お祭りの最後に「直会(なおらい)」という重要な行事があります。
これは、神様にお供えした食べ物や飲み物(神饌・しんせん)を下げて、神職や参拝者が一緒にいただく行為のことです。「神人共食(しんじんきょうしょく)」とも呼ばれ、神様と同じものを食べることで、神様の霊力(パワー)を体の中に取り込み、ご加護を得るという意味があります。
初詣で振る舞われる甘酒は、まさにこの「直会」です。神様の力が宿った甘酒を飲むことで、体の中から清められ、一年を元気に過ごせるよう願う。それが、甘酒が振る舞われる本当の理由なのです。
いつから飲まれている?甘酒の意外な歴史と由来

甘酒といえば「冬の飲み物」というイメージが強いですが、その歴史を紐解くと、意外な事実が見えてきます。
実は、甘酒は日本で最も古い飲み物の一つであり、かつては全く違う季節に愛飲されていたのです。
起源は古墳時代?「日本書紀」に記された天甜酒(あまのたむざけ)
甘酒の歴史は非常に古く、古墳時代まで遡ります。
日本最古の歴史書である『日本書紀』には、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)が狭名田(さなだ)の稲を使って「天甜酒(あまのたむざけ)」を造ったという記述があります。
この「天甜酒」こそが甘酒の起源と言われており、古代からお米を醸して造る甘いお酒は、神事やお祝いの席に欠かせない飲み物として大切にされてきました。
江戸時代は「夏の飲み物」だった!季語としての甘酒
意外かもしれませんが、俳句の世界において「甘酒」は「夏」の季語です。
江戸時代、甘酒は冬ではなく、主に夏に飲まれていました。当時は冷房などの設備がなく、暑さで体力を消耗して亡くなる人が多かったため、栄養価の高い甘酒は「夏バテ防止の栄養ドリンク」として重宝されていたのです。
街中を「甘酒売り」が売り歩き、庶民たちは冷やした甘酒を飲んで、厳しい夏を乗り切っていました。
なぜ「冬(お正月)」の定番になったのか?
では、なぜ現代では「お正月=甘酒」というイメージが定着したのでしょうか。
大きな理由は、神社の参拝客への「おもてなし(寒さ対策)」として広まったことにあります。
初詣の時期は一年で最も寒さが厳しい季節です。神社側が、冷え切った参拝客の体を温めるために、境内でお焚き上げの火とともに温かい甘酒を振る舞うようになり、そこから「初詣には甘酒」という文化が定着していったと考えられています。
また、秋に収穫した新米で酒造りが始まり、お正月頃にちょうど美味しい酒粕や麹が出回るという製造上のサイクルも関係しています。
新年から縁起が良い!初詣で甘酒を飲む3つのメリット

神様からの「お下がり」である甘酒には、スピリチュアルなご利益だけでなく、私たちの体にとって嬉しい実用的なメリットがたくさん詰まっています。
お正月というタイミングで甘酒を飲むことは、一年を健康に過ごすための理にかなった習慣なのです。
1. 飲む点滴!疲れた胃腸を整える整腸作用
甘酒は、その栄養価の高さから「飲む点滴」とも呼ばれています。
点滴と同じ成分である「ブドウ糖」をはじめ、疲労回復に効くビタミンB群、必須アミノ酸などが豊富に含まれています。これらは消化吸収が非常に良いため、年末の忘年会やおせち料理で疲れ切ったお正月の胃腸には、最高に優しい栄養補給となります。
また、食物繊維やオリゴ糖も豊富なため、腸内環境を整え、お正月太りや便秘の解消にも役立つ美容ドリンクでもあります。
2. 身体の芯から温まり、風邪を予防する
初詣の待ち時間は、底冷えする寒さとの戦いです。
甘酒特有の「とろみ」は、飲み物が冷めるのを防ぐと同時に、飲んだ後も熱が胃の中に留まりやすいため、サラッとしたお茶やコーヒーよりも保温効果が長く続きます。
さらに、多くの神社では甘酒に「すりおろし生姜」を入れて提供してくれます。麹の力で血行を良くし、生姜で体を温めるというダブルの効果で、新年早々の風邪予防に大きく貢献してくれます。
3. 邪気を払い、長寿を願う「厄除け」の意味
古くから、甘酒には厄除けの効果があると信じられてきました。
麹菌の発酵によって生まれるパワーは、悪い気(邪気)を払いのけ、新しい生命力を生み出す象徴とされています。
お正月に飲むお酒といえば「お屠蘇(おとそ)」も有名ですが、「お屠蘇は一年の邪気を払い、甘酒は万病を防ぐ」とも言われ、どちらも無病息災を願う大切な縁起物です。「今年も一年、病気にならずに過ごせますように」という願いを込めていただきましょう。
車の運転は大丈夫?「米麹」と「酒粕」の違いに注意

「神社で甘酒を勧められたけれど、車で来ているから飲んでいいか分からない」と迷ったことはありませんか?
実は甘酒には2種類あり、どちらで作られているかによって「アルコールが入っているか、いないか」が大きく異なります。知らずに飲むと飲酒運転になってしまう可能性もあるため、必ず違いを理解しておきましょう。
神社で振る舞われるのはどっち?2種類の甘酒の違い
甘酒の原料は、大きく分けて「米麹(こめこうじ)」と「酒粕(さけかす)」の2パターンがあります。
- 米麹甘酒:
蒸したお米に麹菌を繁殖させて発酵させたもの。【アルコール0%】であり、砂糖を使わなくてもお米本来の甘さがあるのが特徴です。 - 酒粕甘酒:
日本酒を絞った後に残る「酒粕」をお湯で溶き、砂糖を加えたもの。日本酒由来の成分が含まれるため、【微量のアルコール】が含まれています。
神社で振る舞われる甘酒がどちらなのかは、場所によって異なります。飲む前に必ず、看板を確認するか、係の人に「これはお酒が入っていますか?」と確認するようにしてください。
「酒粕甘酒」は飲酒運転になるリスクがある
もし振る舞われているのが「酒粕」で作られた甘酒だった場合、車の運転手は絶対に飲んではいけません。
酒粕甘酒のアルコール度数は一般的に1%未満ですが、加熱処理の具合やレシピによっては数%残っている場合もあります。また、たとえ1%未満であっても、体質や飲む量によっては呼気検査でアルコールが検知され、「酒気帯び運転」として検挙されるリスクが十分にあります。
「コップ一杯くらいなら大丈夫」という油断は禁物です。酒粕の香りがする場合は、運転が終わるまで我慢しましょう。
子供や妊婦でも安心して飲めるのは「米麹甘酒」
一方で、「米麹」で作られた甘酒であれば、完全にノンアルコールですので、車の運転手はもちろん、小さなお子様や妊娠中・授乳中の方でも安心して飲むことができます。
「飲む点滴」としての健康効果が高いのも、こちらの米麹甘酒の方です。最近のブームもあり、神社や屋台でもノンアルコールの米麹甘酒を提供する場所が増えていますが、ご自身や家族の安全を守るためにも、事前の確認だけは忘れずに行いましょう。
まとめ:2026年は甘酒の意味を噛み締めて身も心も温まろう

今回は、初詣で甘酒が振る舞われる理由や、その歴史的背景について解説しました。
最後に、記事のポイントをおさらいしておきましょう。
- 初詣の甘酒は、神様へのお供え(お神酒)のお下がり
- 「直会(なおらい)」として、神様の力を体に取り込む意味がある
- かつては「夏の飲み物」だったが、参拝客を温めるために冬の定番になった
- 「飲む点滴」と言われるほど栄養満点で、風邪予防にも最適
- 車を運転する場合は、「酒粕(アルコールあり)」に注意し「米麹」を選ぶ
2026年の初詣、もし境内で甘酒を見かけたら、ぜひ一杯いただいてみてください。
その一杯には、五穀豊穣への感謝と、私たちの健康を願う先人たちの知恵が詰まっています。「今年も一年、健康で過ごせますように」と願いながら飲む甘酒は、きっといつも以上に美味しく、体の芯まで温めてくれるはずです。
